『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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鳳鏡夜誕生日企画 短編
一番近い場所(ハルヒ&鏡夜) -後編(11月23日の朝)-
二度と離れることがないように、この幸せが一生続くように。
今までで一番近い場所で、二人は同じ夢を見る……。
* * *
誰かが自分の髪をいじってくれている。
その柔らかな感触が夢なのか現実なのか、分からないほど心地よくて、
しばらく、ゆらゆらと意識をそこに埋没させて、
まどろんでいたハルヒは、やがて、ふっと目を覚ました。
「よく、寝てたな」
視界にかかった曇りガラスが、
瞬きするたびにクリアになっていく中で、
目の前に鏡夜の首筋があって、頭の上の方から彼の低い声がした。
「あ……先輩、おはよう……ございます」
髪を梳いているのは鏡夜の指先で、
くすぐったいけれど、とても気持ちいい。
「お前が俺より寝坊するなんて、珍しいな」
その言葉で、やっと事態を把握して、
ハルヒは耳元がかあっと一気に熱くなるのを感じた。
「だって、昨日は、先輩が色々……するから」
「こら、逃げるな」
恥ずかしがってベッドから離れようとしたのに、
布団の中で鏡夜の腕はしっかりとハルヒを捉まえてしまって、
ハルヒは結局そこから抜け出すことはできなかった。
「えっと、今、何時ですか?」
逃れることを諦めて尋ねると、
鏡夜は少し首を動かして、置時計を見やった。
「もうすぐ十二時になるな。本当に良く寝てたが……大丈夫か?」
一体、誰の所為だと……。
「……少し身体が痛いんですけど」
非難をこめたハルヒの感想にも、鏡夜はくすくす笑うだけだ。
抱きしめられて密着する部分から伝わってくる鏡夜の息遣いに、
ハルヒはどきどきしてしまって、
いつもより自分の心臓の鼓動が早いように感じる。
「まあ、今日は俺も一日仕事は入れてないし、
もう少しゆっくりしててもいいだろう?」
「そうですね。お昼食べたらどこか出かけますか?」
「それも悪くないが。ちょっと問題があってね」
「問題?」
鏡夜は相変わらず、ハルヒの頭や首筋を撫でてくれていて、
時折くすぐったくて首をびくっと引っ込める、
そんなハルヒの様子を、楽しんでいるようだった。
「世間だと今日が祝日だから、土日を含めれば三連休になるだろう?
土日にも仕事は入るから、俺にはあまり関係ないことだが」
「そうですね。私も自営業みたいなものなんで、
カレンダー上の休日はあんまり関係ないですけど、
まあ、法廷は開いてないですからね、
先輩が明日明後日は仕事だって聞いてたので、
事務所に行って書類の整理とかしようかなとは思ってますけど」
「それで、橘が、この三連休は家族サービスするらしく……」
「あ、そういえば橘さんって結婚してらっしゃるんですよね」
「子供もいる。まあ、橘にはかなり俺の業務につき合わせて、
最近不規則な生活をさせ続けたから、休みを出したわけだが……」
鏡夜の話によれば、
学生だった頃は、夜遅くまで出歩くことも少なかったから、
鏡夜のボディガードをしている橘の勤務時間も固定的だったらしい。
けれど、鏡夜が社会人となって、ここまで忙しくなると、
鏡夜のボディガード兼秘書の役割をこなす橘は、
鏡夜以上にかなり無理な生活をしていて、
自宅に帰れない日も続いていたという。
「でも、それなら電車か何かで移動すれば……ああそっか。
先輩、まだ足が痛むからそれは大変ですよね」
「まだ走ることもできないし、長時間立ちつづければ多少は痛むが、
そのことが問題なんじゃなくて、
橘に『自分がいないときには外を出歩かないでください』と懇願されたんでね」
「なんでまた、そんなに過保護なことに?」
「……」
鏡夜の指先の動きが不意に止まった。
一体どうしたのかと、ハルヒは自分を抱きしめる彼の顔を見ようとした。
鏡夜はハルヒの頭を胸に抱きかかえるようにして寝ていたから、
ハルヒが首を上げないと、鏡夜の表情は見えない。
「俺の事故がショックだったんだろう。橘の目の前で起きたことだったしな」
「あ……」
そうだった。
橘は、鏡夜のボディガード。
その職務として、何があっても鏡夜の身の安全を
第一に守らなければならなかったのに、
あの事故が起きる直前、わずかに目を離した瞬間に、
鏡夜が交通事故に遭ってしまったのだ。
不可抗力だったとはいえ、
その責任を橘が感じていてもおかしくない。
「あれから、自由に外に出歩かせてもらえなくなってな。
堀田や相島を呼べば車でどこかにいけないことも無いだろうが……、
お前、あんまり仰々しいことは嫌いだろう?」
「それはまあ……じゃあ、今日は家でゆっくりします?」
「ああ、そうしよう。それにもう少し、お前とこうしていたいしな」
ここ最近は気温が低い日が続いたけれど、
今日は綺麗に晴れているようだ。
カーテンを透過して部屋を照らす外の光が、なんだかきらきらと眩しい。
布団の中で抱き合っていると、
お互いの体温がぽかぽかと暖かくて、
目覚めたばかりだというのに、再びうとうとと瞼が重くなってくる気がする。
「ところで、お前はいつまであの事務所にいるつもりだ?
仕事を辞めろというつもりはないが、
うちのグループの法務部にでも来てくれたほうが、俺も安心できるんだが」
「でも、まだ自分は新米ですし。
鏡夜先輩の推薦でそちらに移るのは簡単かもしれませんけど、
まともに法廷に立って弁論できないような状態じゃ、
行っても先輩の助けにはなれないでしょうし。
だから、私はちゃんと一人前に仕事ができるようになって、
鏡夜先輩の役に立てるようになりたいなって思ってるんです」
なるほど、と鏡夜はいつもの調子で相槌を打つ。
「で、一人前というのは、どれくらいかかりそうなんだ?」
「そうですね。職場の先輩弁護士の話だと、
最低でも三年は経たないと、
まともに一人で弁護活動ができるようにはならないって」
「三年、ねえ……」
鏡夜は少し寂しそうに呟いた。
「八年待って、さらに三年俺は待たされるわけか?」
え?
鏡夜の言葉の意味するところが、ハルヒにはすぐにはわからなくて、
彼の顔を伺っていると、ハルヒが理解するよりも前に、
鏡夜は自分で自分を納得させてしまったらしい。
「まあいい。だが、それはお前のわがままだからな?」
「わかってます。次は先輩のわがままを聞けっていうんでしょ」
「わかってるなら話は早い」
そう言うと、鏡夜の身体がハルヒから離れた。
やっと起きてくれるのかと思って、続けてハルヒも身体を起こそうとすると、
離れたと思っていた鏡夜の身体が、再びハルヒの上に圧し掛かる。
「あ、あの、先輩?」
「ん?」
結局ベッドの上に押し戻されたハルヒは、鏡夜におそるおそる問いかける。
「あの、もう朝……というか昼です、よ?」
「だから?」
鏡夜は有無を言わさず、ハルヒの額にそして耳元にキスを贈る。
「だからって……その、明るいですし……それにもう起きないと」
「明るいほうがはっきり見えていいだろう?」
「はっきり見えてって……」
先ほどから終始優しい表情を浮かべていた鏡夜だったが、
その目つきが若干険しくなった。
「先輩?」
「あの時、俺は」
鏡夜は片手で身体を支えつつ、
もう一方の手で、ハルヒの頬をそっと撫でていく。
「もう二度と、お前の顔を見れないんじゃないかと、そう思ったんだからな」
それは……私も同じですよ、鏡夜先輩。
「先輩って……」
ハルヒは心の中でそう言葉を返す。
「やっぱり、ズルいですよね」
私も、先輩のその目が、二度と自分を見てくれないんじゃないかって、
胸が潰れてしまいそうなほどに、苦しんだんですよ。
「俺の何がズルいって?」
だって。
あなたの目は、こんなにも綺麗で。
あなたの視線は、こんなにも強くて。
だから……捉われてしまう。
「だって、そんなこと言われたら断りづらいじゃないですか」
本音を伝えるのが悔しくて、せめてもの抵抗とばかりに、
ハルヒは右手にこぶしを握ると、鏡夜の肩を軽くとんっと叩いた。
「まあ、拒絶させる気もないしな」
にやっと笑った鏡夜の顔は、
近づきすぎた余りに見えなくなってしまって、
「また、そういうことを言……」
ハルヒの言葉は早々に、鏡夜の唇に飲み込まれてしまう。
鏡夜先輩。
私はずっとあなたの傍にいますから、
あなたも私の傍にいてくださいね。
誰よりも近い場所で……ずっと、一緒に。
はっきりと言葉に出さなくても、
真実の想いは、確かにお互いの心の真ん中に届いて、
繋がった二人の周りには、
ただ、ゆらゆらと、温かく幸せな時間が流れていくのだった……。
* * *
了
(初稿2007.11.23 加筆・修正2010.2.14)
2007年の鏡夜の誕生日企画の短編の再公開は以上で終了です。
これは、管理人の能力の限界にチャレンジ!(苦笑)した、
個人的には問題作と思っているストーリーです。(健全サイトギリギリという意味で)
まあ、たまには……らぶらぶぅ~★(真綾さんの演技のイメージでお読みください)してる、
二人を書いても、いいですよね?(笑)
再公開の今日は丁度バレンタインデーということもありますし!!
鏡夜とハルヒ、二人に幸あれ!
2010.2.14 Suriya拝