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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

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三つめの宝物 -28-

三つめの宝物 -28- (鏡夜)

いなくなってしまった、彼女の『大切な人』。その代わりとなる人はどこにも居ない。
同時に……今、ここに居る『自分』の代わりになれる人も、この世にはただ『一人』も存在しないのだ。

* * *

「そういえば、お前だけが映ってる写真がほとんどだが、
 一枚だけ、お前と一緒に、蘭花さんと……、
 それから、琴子さんが映っている写真を頂いたぞ」

一時、隠したとしても、
手元の写真を見られてしまえば、すぐに知れてしまうことだから、
仕方がなかったこととはいえ、
鏡夜は、言ってから少しばかり後悔した。

「え……?」

亡くなった母親の名前を聞いて、
ハルヒの眉が下がり、明らかに寂しそうな表情になったからだ。


『鏡夜君。あの日、ハルヒが過呼吸起こして倒れたって、知ってた?』


昼間の蘭花の言葉を思い出した鏡夜は、
自分の傍に膝をつき、
写真を覗き込もうとしている彼女の様子を、
横目で注意深く伺う。

お母さんの写真、ですか?」

鏡夜の手元で写真を見つめているハルヒの横顔には、
これといった変化は見られない。

「ああ、病室で撮ったものらしいな」

とりあえず、ハルヒの呼吸も落ち着いているようなので、
鏡夜も安心して、その写真を彼女と一緒に眺めていると、
突然、ハルヒは「あっ!」と小さな声を上げた。

「……あ、これ、自分が持ってるのと同じかも」
「同じ?」
「ええ、お守り代わりに手帳に入れて、
 いつも持ち歩いてる写真があって……ちょっと待ってください」

そう言って、ハルヒは立ち上がると、
勉強机の椅子の上に置いてあった、
仕事用の鞄の中から黒い手帳を取り出し、
中に挟み込んでいたらしい写真を一枚抜き出して、
鏡夜のところへ持ってきた。

「ほら、この写真と一緒ですよね?」

ハルヒの手には、日々持ち歩いているためか、
少々よれた、古い写真が握られていて、
その白い四角の枠の中で、確かに、同じように三人が笑っていた。

「確かに、同じ写真だな。
 お前が家族の写真を持ち歩いていたとは知らなかった」
「鏡夜先輩は持ち歩いたりしないんですか?」
「部屋には何枚か飾ってあるが、
 わざわざ持ち歩きはしないな。考えたこともない」
「へえ……でも、部屋に飾ってあるなんて、ちょっと意外な感じがしますね」
意外? どういう意味だ?」
「だって、鏡夜先輩って、芙裕美さんはともかく、
 お兄さん達とは、あんまり仲良さそうに見えないっていうか。
 お父さんもなんか……こう、厳しそうな方ですし。
 家族で仲良く写真を撮って、しかも飾ってる……なんて想像できなくて」
「……誤解の無いように言っておくが、
 うちの家族仲は、別に悪くはないんだぞ?
 まあ、いつもビジネスの話ばかりしてるし、
 後継のこともあるから、緊張感がないといえば嘘になるが、
 社交場や、親族の集まりで、家族写真を撮る機会はそれなりにあるんでね」

ごく一般的な家庭のように、
一家そろってレジャーに行って楽しく写真撮影、
……などと言った機会は、流石に皆無に近いが、
年に数回ある親族の集まりでは、
決まって、一族揃って記念撮影をすることになっていたし、
パーティーなどに家族揃って招待される時には、
大抵、主催者と一緒に写真を撮ることになるため、
家族全員が揃った写真の枚数は、実際かなりの数に上る。

「まあ、データで管理しておくほうが合理的だと思うが、
 ある程度飾っておかないと、それはそれで五月蠅いんでね」

鏡夜としては、写真なんてデータで保存しておいて、
必要があればプリントすばいい、くらいに考えているわけだが、
例によってお節介な姉が、写真を額に入れて持ってきてくれるものだから、
仕方なく飾ることになってしまっている。

勝手に片づけようものなら、
足繁く実家に帰ってくる姉に、何を言われるか分からないので、
なかなかしまうことができない。

姉のこういうところが、
日本各地の土産物を事あるごとに押しつけていった環と、
似ているところがあるなと感じるところではあるが、
せいぜい半年ほど飾っておけば、満足して忘れてくれる環に比べ、
姉の場合はいつまでも覚えているものだから、余計に性質が悪い。

「確かに、写真ってどんどん増えていっちゃって、
 こまめに整理しないと大変なことになっちゃいますけど、
 でも、昔のアルバムとか見るのも結構楽しいですよ?」
「お前のと違って、変わり映えのしない写真が多いからな。
 見返してもつまらないだけだ」

呆れてしまうほど同じ顔をしている自分。
当たり障りの無い仮面をかぶっている自分。
それを、当然のことなのだと、
くだらない自尊心で正当化していた、あの頃の愚かな自分。

つまらないどころか、吐き気さえする。

「だが、この写真は、わざわざ蘭花さんが、
 部外者の俺に焼き増ししてくださったもだからな。
 あとで、うちの部屋に飾っておくことにするよ」
「ちょ、やめてくださいよ。恥ずかしいじゃないですか!」
「あはは」

ハルヒの恥ずかしがる姿を見ていると楽しいので、
つい、からかい半分に、こんなことを口走ってしまったが、
実際、ハルヒの写真を飾っておくことなどできないことは、
鏡夜も十分承知している。

交通事故の後、鳳総合病院に入院中に、
家族とハルヒが、何度も遭遇したせいで、
既にハルヒの存在は身内の知るところとなっていたわけだが、
両親と兄、姉、そして橘以外にも、
誰が部屋に訪れることになるか分からないので、
迂闊なことはしておくわけにはいかない。

そうなると、当然、持ち歩くこともできないため、
いつか、ハルヒの存在を公にできるその時が来るまで、
自室の引き出しの中に大事にしまいこんで、
鍵をかけておくことになるだろう。

「とにかくですね! お父さんが焼き増ししたものなら、
 持っているのは仕方ないですけど、
 飾っておくのはやめて……ん、でも、おかしいな……」
「……どうした?」
「その写真なんですけど、
 ネガを無くしちゃったから焼き増しできないって、
 お父さんが、前に言ってた気がするんですよね」
「ネガ……? デジタルデータじゃないのか?」
「データって、デジカメのことですかね?
 そんなもの、うちが持ってるわけないじゃないですか。
 普通のカメラで撮った写真ですよ」
「それもそうか。で、ネガを無くしたって?」
「ええ。桜蘭学院に入学したての頃だったと思うんですけど、
 池に自分の学生鞄が落ちてたことがあって、
 その時に写真が濡れちゃったんで、
 新しく焼き増ししてもらおうと思って、お父さんに聞いたら、
 お母さんの遺品整理の時に、ネガがどこかにいっちゃって、
 自分がもってる分と、お父さんが持ってる分の、
 二枚しかないから、失くさないようにって言われたんです」

『落ちてた』というより、あれは、
池に『故意に落とされた』の間違いじゃないかと思ったが、
ハルヒは、その点に関しては特に気にしていなさそうだ。

「ということは、これは蘭花さんの持ってた写真ということか?」
「そうだと思いますよ。
 ほら、他のに比べて、ちょっと陽に焼けて色が変色してません?」
「……言われてみれば、確かに」
「一時期、ずっと飾ってあったんですけど、
 あんまり外に出して飾ってると変色しちゃうからって、
 アルバムに戻したんです」

蘭花からプレゼントされた写真の束の中から、
その一枚だけを手にとって、よく見てみると、
確かにこの一枚だけ、
他の写真と比べて色合いが薄くなっている。

「それは、大切なものを頂いてしまったんだな」

たった二枚しかない写真。
その内、一枚を彼女が持ち、もう一方を自分に贈ってくれた。

これは……自分は蘭花から、
ある程度信用されていると思っていて良いということだろうか?

鏡夜が感慨深げに写真を眺めていると、
その向こう側で、ハルヒが不思議そうな顔をして首を傾げた。

「あれ? 先輩、写真の後ろに何か文字が書いてありますよ

会社で封筒を受け取って、写真をざっと見た時には、
一枚めくるごとに、その写真を、
束の一番下にそのまま回してしまっていたから、
写真の裏側なんて、見ることもなかったのだが。

「文字?」

ハルヒに指摘されて、慌ててひっくり返してみると、
白い台紙に黒のマジックペンで、
本日の日付と共に、こんな言葉が添えられていた。



『“三つめの宝物”へ 20XX.11.22』



* * *

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