『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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三つめの宝物 -19- (蘭花)
酔いが回ってきた鏡夜に向かって、蘭花は自分が怒ってる「本当の理由」を明かす。
……まあ、父親としては怒って当然……ですよね? 誤解だとしても(苦笑)
* * *
「はあ? 『そういうことは一切してない』ですって?」
蘭花はヘッドロックのような体制で、
左腕をがっちりと鏡夜の首に巻きつけて、軽く締め上げつつ、
右手の人差し指で鏡夜の頬をつんつんと突いた。
「とぼけようとしても、ネタはとっくにあがってんのよ?
確か六月だったっけ? 『あの子に告白した』とか、
いけしゃあしゃあと電話かけてきた後、
毎週、週末にはあの子の家に、ウキウキと入り浸っていたそうじゃない?」
「ウキウキって……まあ、家に行っていたのは事実です……でも……」
「それを今更、照れ隠し?
それともこの期に及んで責任逃れかしら。
見苦しいわよ、鏡夜君」
「だから、責任逃れとかではなくて……、
確かに……ハルヒの家には、毎週行ってましたけれど……、
それは蘭花さんが想像しているようなものではなく……」
鏡夜はなんだかとても答えにくそうにしている。
理由として考えられるのは、
酒が回ってきた所為か、それとも、やましいところがあるからか。
当然のごとく、後者の意味に理解した蘭花は、
ぎっちりと首筋に手を回したまま、鏡夜を問い詰め続ける。
「あたしが想像してるようなことじゃないなら、
一体なんだったっていうのよ。
まさか、あの子の家に毎週泊まっていたくせに、
家に行ったはいいけど『はい、オヤスミナサイ』で、
何もしてなかった……なんて、
どっかのアイドルの熱愛発覚の言い訳でもあるまいし、
弁解するにしたってあまりに間抜けすぎでしょ」
と、こんな調子で、
鏡夜の弁解には一切聞く耳を持たずにいた蘭花だったのだが。
「だから言い訳ではないんです……俺は本当に何も……」
さて、一体、彼はどんな顔をして、
無様な言い訳をしているのだろうかと、
鏡夜の表情を覗き込んだ途端、
蘭花は追及の言葉を飲み込んだ。
「……」
懸命に答え続ける鏡夜の様子は、
酔いが回って、頬は多少赤らんでいたものの、
顔つき自体は至って真剣そのもので、
自分に都合の悪い事実を、
小手先で誤魔化そうとするような人の顔には、
とても見えなかったからだ。
「え……ちょ、ちょっと、待ってよ……鏡夜君……」
鏡夜の表情を伺いつつ、怖々、確認の質問をしてみる。
「……鏡夜君……ハルヒに何もしてないって、
もしかして、それ、言い訳じゃなくて、本当のことなの?」
「だから、さっきから言ってるじゃないですか。
全部、本当のこと……です……。
俺はまだそういうことは……一切……してません……本当に」
余程、恥ずかしかったのだろう、
答え終わった鏡夜は、
口元を手で抑えて蘭花から視線を逸らした。
「や、やだ! うそっ!? そうだったの!!」
「………………」
恥ずかしすぎて言葉が出ない様子の鏡夜は、
手で顔を覆ったまま、無言で、蘭花と視線を少しも合わせようともしない。
かなり酔いも回ってきているようだし、
今の彼には、体面を保つ演技をする余裕が殆どないのだろう。
鏡夜の様子を傍で分析して、
その言葉の中に一切嘘はないと認めた蘭花は、
新たに生じた疑問を、おそるおそる鏡夜にぶつけてみることにした。
「……ね、ねえ、鏡夜君? ちょっ~と聞いていいかしら?」
壊れ物の手入れをするような心持で、
慎重にひとつひとつ言葉を選んでいく。
「あの、貧乏暮らしのあたしには、
お金持ちの男の子がどういう環境で育つか、全然想像もつかないけど、
あの……君も一応いい『オトナの男』なんだし、
その……『女の子の扱い方』は……ちゃんと知っているのよねえ?」
蘭花の遠慮ない質問に、
鏡夜は、ごほごほと激しくむせこんだ。
「……そ、それは……か、金持ちだろうが庶民だろうが、
そういうメンタルな部分について、
成長過程に差はない……と思……思いますが……」
蘭花がずっと腹を立てていたことについては、
事実無根で間違いなさそうだが、
蘭花の怒りが治まっていたのは、たった一瞬のこと。
「メンタルな成長に差はない? それなら……」
例えば、鏡夜が世間知らずなおぼっちゃまで、
女性に関して色々と不得手……というなら、
それはそれで仕方ないと思えた「かも」しれない。
だが、ちゃんとそれなりの事は知ってて、
事に及んでいないというのであれば、話は別だ。
「それなら、未だにうちの娘に手ェ出してないって、一体どういうことなのよ!」
「え? どういうって……うわっ!!」
蘭花は、鏡夜の首を固めていた腕を外すと、
立ち上がり、ソファーに座った鏡夜の襟元を掴んで上方へ引っ張りあげて、
酔っ払って無抵抗の鏡夜の身体を、ぐわんぐわんと揺さぶった。
「もしかして、うちのハルヒが女として魅力がないとでもいうわけ?」
「は……はあ?」
今まで『娘をキズモノにしておいて』と怒られていた鏡夜にとって、
今度は『手を出してないこと』について怒られるというのは、
理不尽この上ないことだとは思うが。
こういう物事への怒りは、理屈でどうのという問題ではない。
「そりゃ、高校時代はタンクトップ一枚で、
男の子の格好で通せるほどの、
親がいうのもなんだけど、ちょっと手の中が余るっていうか、
少々物足りない幼児体型かもしれないけど。
でも、あんなに可愛い子を彼女にしておいて、
二ヶ月一緒に居て触手が動かないって、
鏡夜君、それ男としてどーなのよっ!」
「そ……そんなことを言われても……、
だって、仕方ないじゃないですかっ!」
突然、鏡夜は大声をあげると、
蘭花の腕を右手でばしっと叩き払った。
酔っ払った相手の動作なんて、
押さえ込むくらいどうということはなかったけれど、
こんなにも荒々しく自分に反抗する、
見たことの無い鏡夜の様子に、蘭花はとても驚いてしまって、
反射的にYシャツから手を離してしまった。
急に支えを失った鏡夜は、そのまま後ろによろけ、
ソファーの背もたれに後頭部を打ち付けるように、どたっと倒れこむ。
「ちょ……鏡夜君、ごめん! 大丈夫? 頭打った?」
「だって……仕方ないこと……じゃないですか……」
薄っすらと目を開けた鏡夜は、
見下ろす蘭花には焦点を合わせず、
天井をぼんやりと見つめながら、独り言のように呟き始めた。
「ハルヒはあの頃は……まだ環のことが好きで……、
環のことを……俺のことなんかよりもずっと愛してて……、
本当に……そばにいるはずの男は……、
俺なんかじゃなくて、あいつだった……。
俺じゃあいつの代わりに……なれない……、
俺は……環……お前のようには……ハルヒを幸せにして……やれない……」
その視線の先には、一体誰の姿が見えていたのだろう。
呟きながら、かけていた眼鏡を外した鏡夜は、
ソファーの上に眼鏡を置こうとして、
それが床に滑り落ちたことも構わずに、
背もたれに頭を持たれかけさせて顔を天井に向けたまま、
右腕で自分の目の上を覆った。
「どんなに触れたくても……俺のものにしたくても……、
俺は……まだ、お前のことを忘れてないハルヒに……、
……そんなこと……俺には……とても……できな……」
鏡夜とハルヒはとっくに男女の仲になってると思っていたから、
鏡夜を呼び出し、そこのところをじっくり追求して、
男の責任というものを、彼がちゃんと理解しているのか確かめてやろう。
……というのが、蘭花の今夜のコンセプトだったわけなのだが。
「鏡夜君……」
実際、二人はまだそういう関係にないということ、
そしてその理由を、鏡夜の呟きから察した蘭花は、
勢いだったとはいえ、環の名前を安易に持ち出してしまったことを、
ひどく後悔し始めていた。
「鏡夜君、その……ごめんなさいね。急に変なこと聞いちゃって……」
腕で顔を隠している鏡夜に蘭花が謝ると、
鏡夜はすっと腕を下ろし、
半眼で、蘭花の顔をじいーっと見つめ始めた。
一体、何を言い出すのだろう? と、蘭花が考えていると。
「……………寝ます」
「えっ!?」
間抜けた表情の蘭花の前で、
鏡夜は一言、そう言い残すと、
ぱたりとソファーの上にうつ伏せに寝転がってしまった。
「寝るって……ちょっと? きょ、きょーやくん?」
横長のソファーに、ぐったりと寝そべった鏡夜は、
ぴっちりと瞼を閉じて、早くも寝息を立ててしまっている。
かなり激しく肩を押して起こしてみようと試みたが、返事は無い。
「……あらあら」
完全に『落ちて』しまった鏡夜の横に、
どさっと座りなおして足組みした蘭花は、
静かな店内にぐるりと視線をめぐらせてから、
鏡夜に再び視線を落とすと、困ったように首をすくめた。
「全く。限界まで酔わせて本音を引き出してやろうと思ってたのに、
鏡夜君は、酔うと、さっさと寝ちゃうタイプ、だったのねえ」
* * *
続