『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。
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* * *
鏡夜先輩の視力が戻って一週間くらいしてからだろうか。
「それにしても、ものすごい絵を描いてくれたものだな。
随分と、医者や看護師にからかわれたんだが」
光と一緒に鏡夜先輩のところにお見舞いに行くと、
ものすごく呆れた様子で、鏡夜先輩からそう突っ込まれた。
鏡夜先輩の目の手術が行われる前に、
既に足のギブス自体は外されてしまっていたんだけど、
せっかくの僕らの大作ということで、
ハルヒが写メを撮っていて、それを見せてもらったらしい。
「あれって、ホスト部の皆をイラストに例えてたんでしょ?
流石に二人は絵が上手いよね」
夕方にお見舞いに行くとハルヒが来ていることが多い。
今日も鏡夜先輩の病室にはハルヒが居る。
「そうそう。よく分かったね、ハルヒ」
絵心の無いハルヒにしては、と、
光は感心した様子で頷いている。
「クマちゃんとうさちゃんは環先輩とハニー先輩のことで、
ポメちゃんとピヨちゃんはモリ先輩のことでしょ?
それは、すぐ分かったんだけど……」
僕らが鏡夜先輩のギブスに好き勝手に描いたイラストは、
クマのぬいぐるみと、ウサギのぬいぐるみと、
タヌキとニワトリをデフォルメしたもの。
そして。
「二つ書いてあったから、光と馨のことは、
このかぼちゃに例えてるんだよね? でも、なんで、かぼちゃだったの?」
ハルヒは自分の携帯電話を開いて、写真を確認しながらそう言った。
「それは俺達が『かぼちゃの馬車』に乗ってたから、だよ」
「かぼちゃの馬車って……シンデレラのお話の?」
「うん、そう」
「それって……光と馨がシンデレラに何か関係あるの?
昔、学芸会とかで演じたとか?
そういえば二人とも、ドレスが良く似合ってたよね」
「ヅカ部の時のことを持ち出すなよ。あれはギャグなんだから」
「そうだよ。大体、あの時一番女装が似合ってたのって、
僕らっていうよりも、きょ……」
「ごほん」
鏡夜先輩の名前を出そうとした瞬間に、
先輩は思いっきりわざとらしい咳をして、
僕をさわやかに睨んだ。
「え……あ~、と、とにかく、
僕らがシンデレラに関係してるというか、
そーいうわけじゃないけど、まあ、なんとなく?」
おとぎ話の世界の中で、
シンデレラが乗った馬車の本当の姿は、
魔女に魔法をかけられただけの、ただのかぼちゃ。
シンデレラにとって、馬車やドレスが夢を具現したものなら、
僕らにとってのホスト部は、
まさにそのシンデレラのかぼちゃの馬車そのものだった。
最初に魔法をかけてくれたのは殿。
僕らはその魔法が解けるまで、
ずっとその、幻のかぼちゃの馬車に乗っていて、
僕らにかかっていたその甘い魔法を……。
最後に解いてくれたのは、君。
「でも、酷いじゃん、光に馨も」
「何が?」
「なんで、皆のこと描いてるのに、私のことは描いてくれなかったの?」
「何言ってるんだよ、ちゃんと描いてあるだろ?
お前のことは、『タ……」
「あーーーーー! 光!!」
「へ?」
僕の大声に、光が間抜けた顔をした。
「何だよ、馨」
「光、あのさ……」
僕がハルヒにバレないように、
目配せで、今の続きは言わないようにと合図する。
「『た』?」
「あー、えーと……」
なんで急に僕が光の言葉を止めたのか、
光は、その意図に気付いてくれたようだ。
「た……、そうそう、『大抵』ハルヒは、
鏡夜先輩の見舞いにきてるんだろうから、
わ、わざわざ書くことはないかなって思ったんだよ。な! 馨?」
「そ、そ~なんだよ。『大抵』ハルヒ、ここに居るもんね」
「さっき、『描いてある』とか言ってなかった?」
「描いてあるようなものだって、そう言ったんだよね? 光は」
「そうそう……って鏡夜先輩、なににやにやしてるんだよ?」
僕らの必死の言い訳の、
理由も答えもすっかり見透かしているようで、
鏡夜先輩は口に手を当てて笑ってる。
「いや。昔、光が使っていた『貯金箱』のことを思い出したんでな」
「貯金箱? なんのこと? 光」
「あ、あはははは、何のことだっけ? 忘れちゃった」
さっきまでの発言だと、
ハルヒはモリ先輩ん家のポメ(タヌキ)とピヨ(ニワトリ)の二匹のイラストで、
モリ先輩のことを表現してると思っているみたいだったから。
「まあ、もう外したちゃったギブスのことなんだし、
そんなにこだわらなくてもいいだろ?」
「それはそうだけど、なんか光、変じゃない?」
「気のせいだって、気のせい」
本当は。
あのイラストの中の『子ダヌキ』は、ハルヒをイメージして描いた。
(ハルヒはポメのことだと思い込んでいる。ちなみに、描いたのは光だ)
……ということは、
なんだかハルヒの機嫌を変に損ねそうなので、
黙っておいたほうが無難だな、と僕は思った。
あ、そうそう、それから。
光が昔使っていた、例の『タヌキ型の貯金箱』は、
今でも光は大事にしていて、
しかも、最近密かに貯金を再開したみたいなんだけど。
そのことは、鏡夜先輩にはしばらく秘密にしておこう。
* * *
了