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『桜蘭高校ホスト部』が大好きな管理人の、二次創作サイトです。

Suriya'n-Fantasy-World

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傷ついた鳥達 -23- Fin.

傷ついた鳥達 -23- (鏡夜&ハルヒ:最終話)

傷つき彷徨い続けた二人の心の軌跡は、今、一つの区切りを迎える。
彼女が選んだことならば、それがどんな結論であっても受け入れる決意をして。

……彼は彼女の言葉を待つ。

* * *

「鏡夜先輩、やっぱり自分は環先輩のことが好きです」

昨日の夜、環のことを忘れてはいけないのだと、
悲痛な叫び声をあげた彼女の姿はそこにはなく。

「鏡夜先輩は自分に言いましたね。環先輩のことを忘れる必要はないって。
 鏡夜先輩が居てくれなかったら、
 自分は大切な環先輩にさえ、嘘をつき続けるところでした。
 もう、誰にも嘘をつきたくないんです。
 だから、鏡夜先輩に、今、どうしても伝えたいことがあります。
 上手く言えるかわかりませんけれど、聞いてくれますか?」

言葉に一切の迷いもなく、
恐れを知らない力強い瞳で鏡夜を見つめている。

「ああ、聞くよ」

自分がずっと愛しいと思ってきたハルヒの姿。
それが、ようやく自分の前に戻ってきた。

しかし、その嬉しさと引き換えに、
どうやら自分は、覚悟を決めなければならないようだ。

「お前の言うことならどんな言葉でも」


それが、例え……自分の望む言葉ではなくとも、
受け入れなければならない覚悟を。


鏡夜の返事を聞いた後、ハルヒは小さく息を飲み込んで、
それから、一つ一つ自分の気持ちを確認するように、
静かにゆっくりと言葉を紡ぎ出し始めた。

「自分の環先輩への気持ちは変わりません。
 やっぱり自分は今でも環先輩を愛しているんです。
 それが判ったのは、鏡夜先輩が傍にいてくれたから、
 先輩が自分を見守ってくれていて、その温かさがあったから、
 この一年間、ずっと現実から逃げてばかりいたけれど、
 やっと自分の気持ちを見直す気になったんです。
 自分にとって鏡夜先輩の存在は大きいです。本当に大きいです。
 鏡夜先輩が傍にいてくれたから、
 だから、自分はここまで来れました。でも……」

と、ここまで一気に話したハルヒは、一旦、言葉尻を濁して、
伝えるべき次の言葉を慎重に選んでいるようだった。

「……でも、鏡夜先輩が、昨日、自分にくれると言った、
 先輩の心と同じ想いは、
 自分にとっては、やっぱり今でも環先輩のところにあるんです。
 だから、今、自分は鏡夜先輩に、
 鏡夜先輩と同じだけの気持ちで応えることは出来ません。
 これから先も、それが出来るとは、今はとても言えません」

鏡夜の心はもう決まっている。

今朝、彼女が寝言で、環の名前を呼んだ時、
この場所に、環の前に彼女を連れてこようと決めた。

『環のことを忘れる必要はない』

彼女の心の重りを取りはらうために、そう言ってやったものの、
事故の後、彼女がずっと抱き続けていた環への気持ちが、
限りなく真実に近くとも、事故の衝撃で歪んで擬製されたものなのであれば、
それを気づかせてやれるのは自分しかいないと思った。
だからこそ、ここまで彼女を連れてきたのだ。


それがどういう結末に結び付くのか、全て、理解したうえで。


「だから自分は、今、鏡夜先輩に……『愛している』とは、言えません」

彼女の言葉の一つ一つに反応して、
胸の奥から、ぴりぴりした痛みが湧き上がってくる。

彼女から聞かされる言葉は、
鏡夜が予想していた通りのものだった。

昨日の夜。

自分の想いを、戸惑いながらも受け入れようとしてくれた彼女の態度に、
知らず知らずのうちに自分の手を握って、眠りに落ちた彼女の姿に、
もしかしたら……と淡い期待もなかったわけではない。

けれど。

彼女の環への想いが、そんなに簡単に揺らぐような浅いものなら、
もっと早くに、遠慮などせず、
自分は彼女に想いを打ち明けていた筈だから。

彼女はきっと揺らがない。
環のことを、これからも愛し続けていくんだろう。

そして、ようやく環と向かい合うことが出来た今となっては、
これまでの一年のように、その想いにただ沈み込むのではなく、
しっかりと前を向いて、堂々と、環を愛し続けていくのだろう。

丁度、彼女の父親が、亡くなった妻のことを今でも愛し続けているように。

傍にいてくれれば、それだけでいいと思った。
彼女の心まで欲しいとは望まないから、
ただ隣にいて、笑っていてくれればそれでいいと、
本当にそれだけが望みだった。

けれど。


たった一つ抱いた、そのささやかな願いでさえも、
彼女が『要らない』と言うのなら、それを受け入れてやるしかない。



「鏡夜先輩。これが、自分の今の正直な気持ちです。
 これが自分の全てで、本当の自分です。嘘偽りない真実です。
 だから、鏡夜先輩に、自分は言わなきゃいけないことがあります……」

* * *


大丈夫だよ、ハルヒ。何も心配はいらない。

この夢の世界から抜け出したら、きっとそこにあるから。
俺の言葉、俺の想い、その答え。
ハルヒなら、きっと見つけられるはず。

だって、ハルヒは、もう……。



* * *

長い沈黙が、その場の空気を支配している。

彼女の言葉を待つ、鏡夜の耳には、
ただただ風の音が聞こえてくるばかり。

言わなきゃいけないことがあると、
そう告げた後で、けれど、ハルヒはなかなか口を開かなかった。

それを鏡夜は急かすこともなく、
ただひたすらに、彼女の言葉を、心が整理されるのを待った。

「鏡夜先輩」

そして。

「あなたを……」

彼女の唇が再び動きだす。





「あなた一人だけを愛することは、おそらく一生できない私に、
 それでも本当に『心をくれる』と言ってくれますか?」





* * *
 

だって、ハルヒは、もう……ひとりぼっちじゃないだろう?


* * *

彼女の出した答えに、最初は自分の耳を疑った。

きっと、自分の想いは拒絶されるのだろうと、
半ば確信めいて考えていた鏡夜にとって、
ハルヒの口から出た言葉には、ただただ驚くばかりだった。

「……」

世界から音や色や、その何もかもが一斉に消えて、
鏡夜の視界にはもう、ハルヒの姿しか見えなくなってしまう、
それほどの衝撃が体中を突き抜けていく。

「……ハルヒ……」

たった一つ。

視界に残った彼女の姿に手を伸ばし、
その腕を無我夢中で掴むと、
鏡夜はそのまま彼女を自分の胸の中へ強引に抱き寄せていた。

「ハルヒ」
「鏡夜先輩、苦し……」
「ハルヒ、お前は変わる必要はない」

目の前の彼女が幻ではないことを、
今、自分の腕の中に確かにいる、という現実を、
全身で感じながら、鏡夜はハルヒをしっかりと抱きとめていた。

「お前が俺にくれるものは、傍にいることだけでいい。
 もし、お前が俺の傍にいることを、少なくとも嫌でないのなら、
 環に対するお前の気持ちも、環からお前へに向けられた気持ちも、
 お前の全てを、俺は愛しているから……」

愛しい彼女が、自分の気持ちに、
完璧ではなくても、一つの答えを出してくれたこと。

その温かな彼女の想いに、体が自然と震えてくる。

「だから、ハルヒ。俺の傍にいてくれ。
 他には望まないから。お前はずっと、そのままでいいから」

壊れてしまいそうなほどに強く、
その腕に力を込めて、鏡夜はハルヒを抱きしめて。


「俺には……それだけで十分だ」


この体の震えも、この熱も、この想いも、
腕の中のハルヒには届いていたのだろうか?

熱のこもった鏡夜の言葉を聞き終えたハルヒは、


「後悔しても、知りませんからね?」


そう言って、鏡夜を見上げると、
屈託のない笑顔を浮かべてくれたのだ。

* * *

長く虚空を彷徨い続けた、傷ついた鳥達は互いに出会い、
お互いの傷を庇いあい、抱き合って地面の上で眠りにつく。

この冷たい地上から、自由な空へ、
別の物語が羽ばたき出すのは、何時になるだろう。

携帯電話の向こう側。
最後に伝えられた真実の言葉。

かき消された言葉は、誰も知ることはできないけれど。

ただ一つだけ言えることは、
その答えは、二人が体を休めるこの場所を覆う、
その壁の向こう側に、
飛び立つことが出来た時に、おそらくは見つかるはずのもの。

そのときが何時来るのかは、未だ闇の中。
それでも確かにすぐそこにある。

肩を寄せ合う二人の下に、
壁一枚隔てた、その向こう側の世界から、
僅かに零れ落ちるように届くのは、


- 『幸せ』という名の暖かい光 -


いつか、その向こう側へ……。

* * *



(初稿2007.7.22 加筆・修正2009.12.31)

以上で「傷ついた鳥達」のお話は終了です。

ブログ移転に伴って再連載するにあたり、
多少の加筆修正と構成変更を行いましたが、
やはり完全に満足いく出来にはならず、相変わらず誤植も多いです(涙)。

が、とりあえず、年内に終えることができてよかったです(苦笑)

拙い文章にも関わらず、
ここまでお読みくださった方に感謝いたします。

ありがとうございました! 

2009.12.31.Suriya拝

(年明けからは、続編「共に在る理由」を再連載いたしますm--m)

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プロフィール

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